Kinsei R&D | Fujimoto Takayuki Works

光線には色はついていない

Performance directed by Fujimoto Takayuki / 2019

 

OVERVIEW

京都で新しく開館したTHEATRE E9 KYOTO オープニングプログラムの一環として、2019年12月に「見ること/観られること/見えること」についての公演と参加アーティストによる各種ワークショップが行われた。
プロジェクトのタイトルとして使われている 『The Rays are not colored・光線には色はついていない』は、アイザック・ニュートンの著書『OPTICKS/ 光学』(1704 年 英語初版出版) の中に書かれている言葉で、この『光学』の主題は色であり、ニュートンは太陽の白色光が様々な屈折性を持つ光の混合物であることを、よくデザインされた実験によって鮮やかに証明した。
この”The Rays are not colored” というフレーズを発端として、ゲーテの『色彩論』やマチスの絵画、テクニカラーを使いモノクロ映像からカラー映像に変わる演出が画期的であるとして高く評価されたミュージカル映画『オズの魔法使』(1939年公開)などをモチーフに、光と色彩をめぐるパフォーマンスが進行していく。


PRODUCTION NOTE

赤を見る瞳:
太陽は膨大な幅の電磁波を発生しているが、その中で人間の眼が捉えている波長を可視光線と呼ぶ。生物の眼の中には、光を捉えるセンサーがあり、同種の、ヒトならヒトの眼が捉える光は、だいたい同じ波長である。
しかし、同じ波長の光を捉えているからといって、同種の生物が同じ色を見ているのか確かめることができるだろうか?
例えば、もしヒトの女性のごく少数が、2種類の「赤」を判別できるとしたら、どうだろう?

哺乳類は、進化の過程で一度、赤を失っている。
遥か昔、捕食者から逃れるために哺乳類が夜行性に移行した際、赤と紫外線を見る力を失う代わりに、明暗を感知するセンサーを発達させた。つまり、ヒトの祖先は暗い中でも形や動きを判別できるようになった代わりに、区別できる色数が減ってしまったのだ。
その赤の波長のセンサーを、ヒトは進化の過程で、類人猿のある時期から再獲得して今に至る。しかし、新しい能力はまだ不安定でエラーが起こりやすく、赤緑色弱が発現する可能性が高くなった。赤と緑は、色としては違って見えるが、眼のセンサーが捉える波長のピークはとても近い。

コンピューターで、表示色数が1670万色という説明がよくあるが、これはデジタルの法則に従って、256段階の赤の明るさと、同じく緑と青それぞれの明るさを256段階で表示した場合、256掛ける256掛ける256 = 1677万7216段階のR (赤) G (緑) B (青) の明暗差が表示できることを意味している。
では仮に、人間がコンピューターのように赤・緑・青の組み合わせで1670万色を識別できるとして、さらにもう1色、別の赤も見ることができる女性が存在するなら、その人は計算上、256の4乗=42億7800万以上もの色分解能を持っていることになる。色覚がひとつ増えるとデータ量は爆発的に増大する。

42億は、途方も無い数である。しかし、計算上はそうでも、人が実際どんな風に世界を見ているのかは、本人以外の誰にもわからない。たぶん、2つの赤を見る瞳を持つ女性本人にも、他人と自分の違いはわからないだろう。デジタル技術のルールが、人間にそのまま当てはまる訳でもなく、何よりも、眼から情報を受けてそれを色に変換している脳が、いったいどんな処理をしているのかを解明しないと、他者の視覚を共有する事は原理的に不可能だ。
ただ、人間の場合、網膜の視細胞は片目だけで1億個以上も存在していて、何かを見ている限り休むことなく光の刺激を信号に変えて脳に伝えている。それだけの莫大な量の情報を、不断に処理し続けているということが、世界を見ているということの土台なのだ。

人間が同じ色を見ているのか、確かめる術はない。
光線は、波長の束だ。では、色はどこにあるのだろう?


PRODUCTION CREDIT

監督・照明藤本隆行 (Kinsei R&D)
演出・振付・出演児玉北斗
平井優子
音楽・ドラマトゥルク
– ウェブ・写真シンヤB
デバイスデザイン
– プログラミング照岡正樹
制作進行大籔もも
フライヤーデザイン南琢也
記録映像製作長良将史
   
主催一社) Kinsei R&D
技術協力有限会社タマ・テック・ラボ
カラーキネティクス・ジャパン株式会社
パイフォトニクス株式会社
協力テンプル大学ジャパンキャンパス

PERFORMANCE SCHEDULE

2019年12月光線には色はついていない THEATRE E9 KYOTO、 京都

MOVIES

The Rays are not colored_Trailer (2019)